社員や顧客が動かない?「怖い・めんどい・わからない」を解消!COM-Bモデルで行動のスイッチを入れる方法

創業して間もない時期、「スタッフが期待通りに動いてくれない」「新しいサービスをお客様がなかなか使ってくれない」…そんな悩みを抱えていませんか? 人が行動を起こさない背景には、単なる「やる気の問題」だけでなく、もっと深い心理的な壁が存在することがあります。マーケティングの世界では、顧客が行動をためらう原因として「怖い(失敗やリスクへの不安)」「めんどい(面倒)(手続きが複雑、時間がかかる)」「わからない(情報不足、理解できない)」という3つの心理的障壁がよく指摘されます。実はこれ、社内のスタッフに対しても同じことが言えるのです。
今回は、こうした障壁を理解し、乗り越えるための強力なツール「COM-B(コムビー)モデル」をご紹介します。これは、人の行動(Behavior)が「能力(Capability)」「機会(Opportunity)」「動機(Motivation)」の3つの要素がそろって初めて生まれる、というシンプルな考え方です。この記事を読めば、COM-Bモデルを使って「怖い・めんどい(面倒)・わからない」の原因を突き止め、社員や顧客の行動を後押しする具体的なヒントが見つかるはずです。
なぜ「怖い・めんどい(面倒)・わからない」が行動を妨げるのか?
新しいことを始めたり、変化を受け入れたりするとき、人は無意識のうちに抵抗を感じます。
- 怖い(Fear): 「失敗したらどうしよう」「損をするのではないか」「周りにどう思われるか」といった不安は、行動へのブレーキとなります。新しいツール導入に抵抗する社員、高額商品の購入をためらう顧客などが例です。
- めんどい(面倒)(Inconvenience): 手続きが複雑だったり、時間がかかりすぎたりすると、「そこまでしてやる価値があるのか?」と感じ、行動を諦めてしまいます。入力項目が多い申込フォーム、手間のかかる社内報告プロセスなどが該当します。
- わからない(Lack of Knowledge): やり方が不明確だったり、メリットが理解できなかったりすると、人は動けません。「何をすればいいかわからない」「なぜこれが必要なのかわからない」状態です。説明不足の新サービス、目的が不明確な社内プロジェクトなどがこれにあたります。
これらの心理的障壁は、従業員のパフォーマンス低下や、顧客の購買意欲減退に直結します。COM-Bモデルは、これらの障壁が3つの要素(能力・機会・動機)のどこに関連しているかを特定するのに役立ちます。
シンプルだけど奥深い「COM-Bモデル」と3つの障壁
COM-Bモデルの3つの要素と、「怖い・面倒・わからない」の関係を見ていきましょう。
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- Capability(能力) ~ 「わからない」の壁
これは、行動に必要なスキルや知識、理解力のことです。能力が不足していると、「わからない」ために行動できません。- 知識・理解力の不足: 新しいソフトウェアの使い方がわからない。サービスの内容やメリットが複雑でわからない。→ 行動できない。
- 身体的能力の不足: 体力的に難しい作業を求められても、できない。
- Capability(能力) ~ 「わからない」の壁
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- Opportunity(機会) ~ 「面倒」の壁
これは、行動をとるための環境や状況が整っているか、ということです。機会が不足している、あるいは整えるのが「面倒」だと、行動は妨げられます。- 物理的機会の不足: 必要な情報やツールが手元になく、探すのが面倒。作業スペースが狭くてやりづらいのが面倒。手続きが多くて面倒。→ 行動しない。
- 社会的機会の不足: 周囲に相談しにくい雰囲気で、質問するのがはばかられる(心理的に面倒)。社内ルール上、申請を通すのが面倒。→ 行動が抑制される。
- Opportunity(機会) ~ 「面倒」の壁
- Motivation(動機) ~ 「怖い」の壁
これは、行動を起こそうとする意欲ややる気のことです。失敗への不安やリスクを感じると、「怖い」という感情が動機を打ち消し、行動をためらわせます。- 内発的動機の低下: やりがいを感じられず、新しい挑戦をするのが億劫(ある意味、変化が怖い)。
- 外発的動機の不足/負の動機: 失敗すると罰せられるかもしれない(怖い)。新しいサービスを試して損をするかもしれない(怖い)。→ 行動を避ける。
行動(Behavior)は、C・O・Mの3要素がすべて満たされ、「わからない」「面倒」「怖い」といった障壁が取り除かれて初めてスムーズに生まれます。 どこか一つでも欠けていたり、障壁が高すぎたりすると、人はなかなか動かないのです。
創業期の「困った」をCOM-Bと心理的障壁で分析
従業員や顧客が動かない場面を、この視点で分析してみましょう。
ケース1:従業員が新しい業務プロセスを覚えない
- C(わからない): マニュアルが不十分? 研修で理解できたか? そもそもなぜ変える必要があるかわからない?
- O(面倒): 新しいプロセスに必要なツールや情報にアクセスしにくい(面倒)? 周囲が旧プロセスに固執していてやりにくい(心理的に面倒)?
- M(怖い): 新しいプロセスでミスをするのが怖い? 変化すること自体に抵抗がある(現状維持が楽で、変化が怖い)?
ケース2:顧客が新しいオンラインサービスに登録してくれない
- C(わからない): サービスのメリットや使い方が十分に伝わっていない? 説明が専門的すぎてわからない?
- O(面倒): 登録手続きのステップが多い? 入力項目が多すぎる? スマホで操作しにくい(物理的に面倒)?
- M(怖い): 個人情報を登録するのが怖い? 使ってみて期待外れだったらどうしよう、という不安(試すのが怖い)?
このように分析することで、「やる気の問題」「サービスが悪い」と短絡的に判断せず、具体的な障壁と、それに対応するCOM-Bの要素が見えてきます。
COM-Bモデルを組織づくりとマーケティングに活かすヒント
このモデルは、社内(組織づくり)と社外(マーケティング)の両面で活用できます。
<組織づくりへの応用>
- 研修・教育: 「わからない」を解消するために、わかりやすいマニュアル作成やOJTを実施(C)。実践する「機会」を作り(O)、成功体験で「怖い」を克服し自信をつける(M)。
- 業務改善: 「面倒」なプロセスは、ツール導入や手順見直しで徹底的に簡略化(O)。なぜ改善が必要か目的を共有し、納得感を高める(M)。
- コミュニケーション: 「わからない」「怖い」と感じていることを気軽に相談できる雰囲気を作る(Oの社会的機会)。良い行動や挑戦を称賛し、ポジティブな動機づけ(M)を促す。
<マーケティングへの応用>
- サービス・商品改善: 顧客が「わからない」点をFAQやチュートリアルで解消(C)。「面倒」な手続きは徹底的に簡素化(O)。「怖い」を軽減するために無料体験や返金保証、お客様の声を掲載(M)。
- プロモーション: 複雑な情報は図解などで「わかりやすく」(C)。申し込みや問い合わせへの導線を「簡単に」(O)。限定オファーや社会的証明(レビュー等)で「試してみよう」という気持ちを後押し(M)。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「怖い・面倒・わからない」は、どれか一つだけが原因ですか?
A1. いいえ、複数の障壁が組み合わさっていることが多いです。例えば、「使い方がよくわからない(C)上に、登録が面倒(O)で、個人情報を渡すのが怖い(M)」といった具合です。COM-Bモデルで整理することで、どの要素に複数の障壁が集中しているかなどを把握しやすくなります。
Q2. マーケティングでよく聞く他のフレームワーク(例: Fogg Behavior Model)とはどう違いますか? 併用は有効ですか?
A2. Fogg Behavior Model(FBM)は「動機・能力・きっかけ(Prompt)」、COM-Bは「能力・機会・動機」で行動を説明します。考え方は似ていますが、COM-Bは特に「機会(環境要因)」を独立して重視している点が特徴です。
行動変容をより立体的に理解したい方は、これらを併用することも有効です。 FBMでは「Prompt(きっかけ)」も行動の重要な要素としており、これはCOM-Bの「機会(Opportunity)」に含まれるTrigger(引き金)要素をより明確に整理するのに役立ちます。特に、リマインダー通知やウェブサイトのボタン配置(UIデザイン)など、「行動への最後の一押し」を設計する際には、FBMの視点が効果を発揮することがあります。どちらのモデルも「怖い・面倒・わからない」という障壁を分析するのに役立ちますので、目的に応じて使い分ける、あるいは組み合わせて考えるのが良いでしょう。
Q3. 顧客の「怖い」という感情にどう対応すればいいですか?
A3. 不安を取り除く情報提供が基本です。具体的には、購入者のレビューや導入事例の紹介(社会的証明)、返金保証や無料トライアル期間の設定(リスク低減)、丁寧なカスタマーサポート体制(安心感の提供)などが有効です。
Q4. 税理士にマーケティングの相談もできますか?
A4. 税理士の主たる専門分野は税務・会計ですが、多くの経営者と接する中で、売上向上や顧客獲得に関する課題に触れる機会も少なくありません。事業計画を作成する際には、マーケティング戦略や売上予測も重要な要素となります。税理士は数字の専門家として、計画の妥当性を検証したり、関連する補助金情報を提供したりできます。また、必要に応じてマーケティング専門家を紹介することも可能です。まずは気軽に相談してみると良いでしょう。
まとめ:「行動の壁」を取り除き、ビジネスを加速させる
人が動かない背景には、「怖い」「面倒」「わからない」といった心理的・物理的な障壁が隠れています。COM-Bモデルは、これらの障壁が「能力(Capability)」「機会(Opportunity)」「動機(Motivation)」のどの要素に関連しているかを明らかにし、具体的な対策を立てるための羅針盤となります。従業員の育成や組織活性化はもちろん、顧客獲得やサービス改善といったマーケティング活動においても、この視点は極めて有効です。(さらに深い分析には、Fogg Behavior Modelのような他のフレームワークと組み合わせることも有効です。)ぜひCOM-Bモデルを活用し、社内外の「行動の壁」を取り除き、ビジネスを前進させてください。
参考文献
- Michie, S., van Stralen, M. M., & West, R. (2011). The behaviour change wheel: a new method for characterising and designing behaviour change interventions. Implementation Science, 6(1), 42. https://implementationscience.biomedcentral.com/articles/10.1186/1748-5908-6-42 ↗
- 厚生労働省.健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 https://www.mhlw.go.jp/content/001195870.pdf ↗
- Sport England. Long-term increase in activity levels positive but further action needed to tackle inequalities. https://www.sportengland.org/news-and-inspiration/long-term-increase-activity-levels-positive-further-action-needed-tackle ↗
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