なぜ今、名古屋市長はインドへ飛ぶのか？ スタートアップの未来を占う「ベンガルール連携」の本当の意味【創業支援の専門家が解説】

これまで1,000件以上の創業相談を受け、名古屋の起業家たちと伴走してきた税理士の佐治です。「名古屋市長がインドへ訪問」。このニュース、あなたも「自分にはあまり関係ないな」と、なんとなく見過ごしていませんか？ しかし、この一見地味な出来事は、名古屋のスタートアップ・エコシステムが新たなステージへ向かう、歴史的な号砲なのです。この記事を読めば、以下の3点が明確になります。

1. なぜ今、インド・ベンガルールなのか？（名古屋の産業構造との必然的な繋がり）
2. これまでの名古屋市の戦略とどう繋がるのか？（過去10年の伏線回収）
3. この大きな流れが、あなたの事業にどんな可能性をもたらすのか？（未来への展望）

なぜ今、名古屋市長はインドへ？全ての起業家が知るべき「ニュースの裏側」

今回の名古屋市長、広沢一郎氏のインド・ベンガルール（べんがるーる）訪問は、単なる儀礼的な海外出張ではありません。これは、名古屋の未来像を左右する可能性を秘めた、極めて戦略的な一手です。市の公式発表によれば、その目的は「経済成長への期待が高まるインドと、自動車産業が集積する当地域との経済交流を活性化させるため」とされています。

しかし、この公式発表の裏には、より深い文脈が隠されています。それは、名古屋が「ものづくりの街」から「ものづくり×ITのグローバル・イノベーション拠点」へと本気で脱皮しようとしている強い意志の表れです。そして、その変革の鍵を握るパートナーとして、世界有数のIT集積地であるベンガルールに白羽の矢が立ったのです。この動きは、あなたの事業がたとえ地域密着型であったとしても、決して無関係ではありません。なぜなら、街全体の産業構造が大きく変わろうとする時、そこには必ず新しいビジネスチャンスと、これまでにない成長の追い風が生まれるからです。

伏線は5年以上前に始まっていた。名古屋スタートアップ戦略の「これまで」と「今」

今回のインド訪問という「点」を理解するためには、過去何年もの名古屋市のスタートアップ支援戦略という「線」で捉える必要があります。名古屋は、決して一夜にして国際舞台に躍り出たわけではありません。

• 基盤構築期（2018年～）: 愛知県が全国でも先駆けて「Aichi-Startup戦略」を策定し、国内最大級の支援拠点「STATION Ai（すてーしょんえーあい）」構想を打ち出したのが全ての始まりでした。 この時期、市や県は大学との連携を深め、外国人起業家を支援する「スタートアップビザ制度」を導入するなど、地道にエコシステムの土台を築き上げていきました。
• ネットワーク形成期（2020年～）: 名古屋市・愛知県・浜松市などが連携した「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」が、国の「グローバル拠点都市」に選定されたことで、その動きは加速します。 東京や福岡と肩を並べる拠点として公的に認められたのです。ボストン発の交流プログラム「NAGOYA CONNECT」は、5年間で延べ15,000人以上が参加する巨大なコミュニティへと成長し、地域に「起業家文化」の種を蒔きました。
• 国際展開期（2023年～）: コロナ禍を経て、いよいよ国際交流が本格化します。2023年にはインドのスタートアップミッション団が名古屋を訪問。 そして2024年10月、満を持して「STATION Ai」が開業し、5年で1000社の入居を目指すという壮大な計画が現実のものとなりました。 東海地区最大級の祭典「TOCKIN’ NAGOYA」や、世界的テックイベント「TechGALA Japan」の開催も続き、名古屋は確実に世界との接点を増やしてきました。

この流れを見れば、今回のベンガルール訪問が、国内での基盤固めを終えた名古屋が、満を持して世界（特に成長著しいアジア）との本格的な連携を深めるフェーズに入ったことを示す、必然的な一手であることがわかります。

「ものづくり名古屋」×「ITの巨人ベンガルール」＝未来への化学反応

なぜ、連携相手がシリコンバレーやシンガポールではなく、インドのベンガルールだったのでしょうか。それは、名古屋とベンガルールが、互いの弱みを完璧に補い合える「最高のパートナー」だからです。

名古屋の強みは、トヨタ自動車を筆頭とする世界トップクラスの「製造業（ハードウェア）」の集積にあります。品質管理、精密加工、サプライチェーン。これらは一朝一夕には真似できない、日本の宝とも言えるノウハウです。しかし、弱みはソフトウェアやデジタル人材の不足でした。

一方、ベンガルールは「インドのシリコンバレー」と称される、世界最大級のIT・ソフトウェア開発拠点です。約200万人を超える優秀なITエンジニアが集い、GoogleやMicrosoftなど世界の名だたる企業が開発拠点を置いています。 彼らの強みはまさに、「デジタル（ソフトウェア）」です。しかし、弱みは高品質なハードウェアを生み出す製造基盤でした。

この両者が手を組むことで、どのような化学反応が起きるでしょうか？

• コネクテッドカー・自動運転: 名古屋の高品質な車体や部品と、ベンガルールのAI・データ解析技術が融合し、世界をリードする次世代モビリティが生まれるかもしれません。
• スマート工場（インダストリー4.0）: 名古屋の工場の生産ノウハウを、ベンガルールのIoT技術でデジタル化し、世界で最も効率的な生産システムを共同開発できる可能性があります。
• ロボティクス・EV: 名古屋の精密なロボット技術と、ベンガルールの自律制御AIやバッテリー管理システムが組み合わされば、全く新しいロボットやEVが誕生するでしょう。

このように、「ハードの名古屋」と「ソフトのベンガルール」の連携は、お互いの強みを掛け合わせ、弱みを補う、まさに理想的なパートナーシップなのです。

あなたの事業計画書に「世界の追い風」を書き込む方法

「市と市の連携なんて、自分の小さな会社には関係ない」と思うのは早計です。この大きな流れは、あなたの事業の信頼性と将来性を補強する「強力な追い風」として、事業計画書や融資面談で戦略的に活用することができます。

例えば、事業計画書の「事業環境」や「成長戦略」の項目で、単に「市場は成長しています」と書くのではなく、次のように記述してみてはどうでしょうか。

当社の事業領域である〇〇は、現在、名古屋市が推進するインド・ベンガルールとの経済連携における重点分野（例：次世代モビリティ、産業DX）と合致しています。市の公式な後押しにより、将来的には現地IT企業との協業や、インド市場への展開も視野に入れており、地域のエコシステムを活用することで、単独での事業展開に比べ、成長の確度とスピードが飛躍的に高まると考えております。

このように記述することで、あなたの事業が単なる思いつきではなく、地域の大きな戦略の流れに乗った、実現可能性の高いものであることを、融資担当者や投資家に強く印象付けることができます。

さらに、今後、名古屋の起業家が注目すべき「次の動き」にもアンテナを張っておきましょう。

• 航空路線の新設発表: 市長が要請している、中部国際空港とインド主要都市を結ぶ直行便が就航すれば、物理的な距離が一気に縮まります。
• 交流イベント・ピッチコンテスト: JETROやSTATION Aiが主催する日印スタートアップ交流イベントが、今後さらに大規模・定例化する可能性があります。
• 新たな支援制度: インド連携に特化した補助金や、専門家派遣制度などが新設されるかもしれません。

これらの情報は、市の公式発表や支援機関のウェブサイト、そして私たちのような専門家の情報網を通じてキャッチアップできます。常にアンテナを高く張り、得た情報を自社の戦略に柔軟に取り入れていく姿勢こそが、この追い風を最大限に活かす鍵となります。

まとめ：名古屋の挑戦は、あなたの挑戦だ。

今回の名古屋市長のインド・ベンガルール訪問は、名古屋が世界に向けて新たな挑戦の狼煙（のろし）を上げた、象徴的な出来事です。「東京じゃないとグローバルなビジネスは無理だ」という考えは、もはや過去のものです。名古屋には、世界に誇るものづくりの基盤があり、そして今、世界最先端のITハブと手を組むという、新たな武器を手に入れようとしています。

この大きなうねりの中心にいるのは、紛れもなく、あなたのような挑戦する起業家一人ひとりです。名古屋市の挑戦は、そのままあなたの挑戦の追い風となります。この街で起業するというあなたの選択は、未来への大きな可能性を秘めています。

私たち名古屋創業融資支援オフィスは、この歴史的な転換点に立ち会えることを誇りに思い、地域を愛し、ここで挑戦するすべての起業家を、全力でサポートしていきたいと考えています。あなたのその熱い想いを、この街の未来を創る力に変えていきましょう。

名古屋市長のインド・ベンガルール訪問は、市のスタートアップ戦略が新たな段階に入った証だ。「ものづくり」の名古屋と「IT」のベンガルールが連携することで、次世代モビリティ等の分野で巨大なシナジーが期待される。起業家はこの追い風を事業計画に反映させ、名古屋で挑戦することに新たな自信と誇りを持つべきだ。

FAQ（よくあるご質問）

参考文献

• 国内最大のインキュベーション施設「STATION Ai」、名古屋で開業(日本) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ | https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/11/79deee7439bf29cb.html
• 「外国人起業活動促進事業」の実施について – 愛知県 | https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kinyu/gaikokujinkigyo.html
• 5年でのべ15,000人超が参加！イノベーションイベント「NAGOYA CONNÉCT」を知っていますか？ | 名古屋市シティプロモーションサイト | やさなご | https://www.promotion.city.nagoya.jp/news/1612/
• インドのスタートアップミッションが浜松と名古屋を訪問(インド)|ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ | https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/fbfe6ab87108b225.html
• 東海地区最大規模のスタートアップの祭典「TOCKIN’ NAGOYA 2024」開催（2/29＆3/1） | 名古屋大学 学術研究・産学官連携推進本部 | https://www.aip.nagoya-u.ac.jp/event/20868.html
• 名古屋に起業家約300名が集結。2025年2月、テックイベント「TechGALA Japan」開催へ | Business Insider Japan | https://www.businessinsider.jp/article/292954_techgala-japan/
• 名古屋市:報道資料 令和7年8月4日発表 市長の海外出張について（市政情報） | https://www.city.nagoya.jp/keizai/page/0000188949.html
• 「インドのシリコンバレー」ベンガルール地域との投資・貿易ビジネスチャンス！ 中小機構とベンガルール商工会議所がビジネス協力でMOUを締結｜独立行政法人中小企業基盤整備機構のプレスリリース | https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001322.000021609.html