名古屋市の令和8年度(2026年度)予算案で、創業者向け融資制度「新事業創出資金」の預託金が前年度の5億円から12億円へ急増しました。融資目標額にして24億円分の枠が用意される見通しです。
背景には、2024年11月に就任した広沢一郎新市長による初の本格予算編成で、創業支援が重点配分されたことがあるとみられます。
本記事では、融資相談実績200件以上の税理士・佐治英樹が、この急増の意味、制度の仕組み、そして創業を検討している方が今とるべきアクションを解説します。
本予算案は2026年2月時点の草案であり、議会承認を経て確定します。
名古屋市の創業融資予算が2.4倍に急増――何が起きているのか
2026年度予算案で、名古屋市の創業融資の枠が前年比2.4倍の12億円に拡大される見通しです。
名古屋市が提出した令和8年度予算案(草案)において、創業者向け融資制度「新事業創出資金」への預託金が、前年度の5億円から12億円に増額されました。
預託金とは、市が銀行に預けるお金のことです。市がこのお金を銀行に預けることで、銀行はその約2倍の金額を融資枠として設定します。つまり、12億円の預託金は約24億円の融資枠に相当します。
この伸び率は、経済局が所管する中小企業金融対策の中でも突出しています。令和4年度から着実に増やされてきたこの制度が、なぜ2026年度に一気に加速したのか。その背景を読み解いていきます。
「新事業創出資金」とは?制度の基本をおさらい

名古屋市独自の創業融資制度で、最大3,500万円を低金利・保証協会100%保証の好条件で借りられます。
「新事業創出資金」は、名古屋市がこれから起業しようとしている方や、新たに会社を分社化しようとしている方を対象に設けている融資制度です。主なポイントを整理します。
制度の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 融資限度額 | 3,500万円 |
| 資金使途 | 運転資金・設備資金 |
| 返済期間 | 運転資金7年以内、設備資金10年以内 |
| 据置期間 | 12か月以内(元金の返済を猶予される期間) |
| 利率 | 年1.0〜1.3%(融資期間によって異なる。下記参照) |
| 信用保証 | 名古屋市信用保証協会による100%保証 |
利率の詳細(令和7年4月改定後)
日銀の政策金利引上げに伴い、令和7年4月から名古屋市の中小企業融資制度全体で年0.2%の金利引上げが行われました。改定後の利率は以下のとおりです。
| 融資期間 | 利率(年) |
|---|---|
| 3年以内 | 1.0% |
| 5年以内 | 1.1% |
| 7年以内 | 1.2% |
| 10年以内(設備資金のみ) | 1.3% |
名古屋市スタートアップ企業支援補助金の事業認定を受けた場合は、さらに0.1%の優遇措置があります。
信用保証の仕組み
通常、銀行からお金を借りるには担保が求められます。しかし、起業したばかりの方は担保となる資産がないことがほとんどです。
そこで名古屋市信用保証協会が「保証人」の役割を果たします。「もしこの方が返済できなくなったら、代わりに私たちが支払います」と銀行に約束してくれるのです。
この制度では、信用保証協会が融資額の100%を保証します。通常の融資制度では保証割合が80%にとどまるケースもありますが(これを「責任共有制度」と言います)、新事業創出資金はその対象外であり、創業者にとって特に使いやすい設計になっています。
お金の流れ(預託の仕組み)
名古屋市が起業家に直接お金を貸すわけではありません。仕組みはこうです。
- 名古屋市が金融機関に預託金を預ける
- 金融機関はその預託金を元手に、約2倍の融資枠を設定する
- 名古屋市信用保証協会が融資に100%の保証をつける
- 創業者が金融機関から融資を受け、返済していく
預託金の額が増えれば、そのまま融資枠の拡大に直結します。
この制度、実は近年、静かに予算が増やされてきました。しかし2026年度、その動きが一変します。
予算の推移から見える「急増」の意味
令和4年度から毎年1億円ずつ増額されてきた予算が、令和8年度に一気に7億円増えました。
過去5年間の新事業創出資金の予算推移を見ると、令和8年度の増額がいかに異例かがわかります。
| 年度 | 預託金 | 融資目標額 | 前年比(預託金) |
|---|---|---|---|
| 令和4年度(2022年) | 3億円 | 6億円 | ― |
| 令和5年度(2023年) | 4億円 | 8億円 | +33% |
| 令和6年度(2024年) | 5億円 | 10億円 | +25% |
| 令和7年度(2025年) | 5億円 | 10億円 | ±0% |
| 令和8年度(2026年・草案) | 12億円 | 24億円 | +140% |
注目すべきは、そのパターンです。
令和4〜6年度は毎年1億円ずつ、着実に増えていました。令和7年度に一度据え置きとなり、令和8年度に7億円の一気増額です。「少しずつ増やす」から「一気に広げる」へ、明らかにギアが変わっています。
もう一つ重要なのは、制度の枠組み自体は変わっていないという点です。「預託金の約2倍が融資目標額になる」という設計は令和4年度から一貫しています。つまり、制度を根本から見直したのではなく、「この制度をもっと大きく使おう」という判断が下されたということです。これは、制度の運用実績に対する一定の評価があってこその増額と読めます。
この急増の背景には、2024年11月の市長交代をはじめとする行政の大きな動きがあります。
背景に見える新市長の政策方針
2024年11月に就任した広沢一郎市長にとって、初の本格予算編成で創業支援に重点配分がなされました。
令和8年度予算案は、広沢一郎市長が就任後初めて編成した本格的な予算です。広沢氏は2024年11月25日に名古屋市長に就任しました。ITベンチャーの創業や企業経営に携わった実業家出身の市長による初の本格予算編成という点も、創業支援策の強化を読み解くうえで無視できない背景といえるでしょう。
この予算案で注目されるのは、創業支援への重点配分です。新事業創出資金の預託金増額に加え、「スタートアップ企業支援助成」として6,500万円が計上されています(名古屋市令和8年度予算要求資料より)。
また、中日新聞の報道によると、名古屋市は経済局長の吹上康代氏を副市長に起用する人事案を、2月18日開会の定例市議会に提案する方針です。吹上氏は経済局でイノベーション推進部長を務めた経歴を持ち、創業支援やスタートアップ政策に携わってきた人物です。
整理すると、以下のような事実が確認できます。
- 2024年11月:広沢一郎新市長が就任
- 2026年2月:新市長初の本格予算案で創業融資予算を2.4倍に増額
- 2026年2月:創業支援経験のある経済局長の副市長起用を市議会に提案予定(中日新聞報道)
これらの事実が一つの方向性を示していることは確かですが、予算増額と人事の間に直接の因果関係があるかどうかは、現時点では確認できません。最終的には、2月18日開会の定例市議会における予算審議の質疑と答弁を待つ必要があります。
ただし少なくとも、名古屋市が創業支援に対して「これまでとは異なるスケール」で取り組もうとしていること自体は、予算の数字が示しています。
創業を検討している方が今とるべきアクション
予算の枠が広がるということは、融資の「入口」に余裕が生まれる可能性があるということです。
予算枠が2.4倍に増えたとしても、審査基準そのものが緩くなるわけではありません。融資を受けるためには、事業の実現可能性を示す事業計画書が引き続き求められます。
ただし、枠に余裕が生まれれば、申込が集中した際に「枠が足りない」という理由で対応を断られるリスクは下がります。融資の「入口」が広くなるということです。
この好機を活かすために、今からできる準備を3つご紹介します。
ステップ1:事業計画書のたたき台を作る
融資審査で最も重視されるのは事業計画書です。完成版である必要はありません。まずは「どんな事業で、誰に、何を提供し、どう収益を上げるか」を整理したたたき台を作りましょう。
ステップ2:名古屋市新事業支援センターの窓口相談を活用する
名古屋市は「名古屋市新事業支援センター」で創業に関する無料の窓口相談やセミナーを実施しています。事業計画書の作り方から資金調達の相談まで対応しており、融資申込前に利用することで、計画の精度を高めることができます。
ステップ3:専門家に相談して計画をブラッシュアップする
税理士や中小企業診断士など、創業融資の実務を知る専門家に早い段階で相談することで、事業計画書の説得力が大幅に向上します。融資制度ごとの特徴や審査のポイントについても、具体的なアドバイスが受けられます。
制度融資は申込から融資実行まで1〜2か月かかるのが一般的です。「融資を受けてから動く」のではなく、「準備を始めてから融資を申し込む」という順序が重要です。
まとめ:名古屋市の創業支援は「本気モード」に入りつつある
確実に言えることを整理します。
- 名古屋市は制度の枠組みを変えず、新事業創出資金の規模を2.4倍に拡大した
- 新市長の初本格予算で、スタートアップ企業支援助成と合わせて創業支援が重点配分された
- 創業支援経験のある経済局長の副市長起用が報じられている(中日新聞)
これらの動きは、名古屋市が創業支援に対して「これまでとは違うスケール」で取り組む意思を持っていることを示唆しています。
名古屋で創業を検討している方にとって、2026年度は制度面での追い風が吹き始めるタイミングといえるかもしれません。
令和8年度予算案は草案段階であり、2月18日開会の定例市議会での審議を経て確定します。最新情報は名古屋市の公式サイトでご確認ください。
FAQ
Q. 新事業創出資金とは何ですか?
A. 名古屋市が実施する創業者向けの融資制度です。融資限度額3,500万円、利率年1.0〜1.3%で、名古屋市信用保証協会が100%保証するため、担保がなくても利用しやすい設計になっています。
Q. 予算が増えると融資が受けやすくなりますか?
A. 枠に余裕が生まれるため、申込が集中した際に対応を断られるリスクは下がる可能性があります。ただし、審査基準そのものは変わりません。融資を受けるには、事業計画書の質が引き続き重要です。
Q. この予算案は確定しているのですか?
A. いいえ。令和8年度予算案は2026年2月時点の草案であり、2月18日開会の定例市議会での審議を経て正式に確定します。
Q. 融資を受けるにはまず何をすればよいですか?
A. まず事業計画書のたたき台を作り、名古屋市新事業支援センターの窓口相談を活用することをお勧めします。その上で、税理士や中小企業診断士などの専門家に相談し、計画をブラッシュアップしてから融資を申し込むと、審査通過の可能性が高まります。
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参考文献・出典
- 名古屋市「令和8年度予算の概要(草案)」(2026年2月10日公表)
- 名古屋市「中小企業融資制度のご案内」
- 名古屋市信用保証協会「新事業創出資金」
- 名古屋市「中小企業融資制度の利率の改定について」(令和7年3月3日発表)
- 中日新聞「名古屋市副市長、経済局長の吹上康代氏起用へ 女性副市長は3人目」(令和7年2月9日発表)
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この記事の内容は2026年2月時点の情報に基づいています。個別の融資判断については専門家にご相談ください。




















