【プロが解説】決算書不要・最短当日融資は本当に使える?SaaSデータ活用の「落とし穴」と「賢い使い方」
公開日 2025年8月28日 最終更新日 2025年9月5日
これまで税理士として数え切れないほどの経営をサポートしてきたプロとして、多くの経営者が直面する共通の悩みを見てきました。それは「受注は増えているのに、なぜか手元の現金が足りない…」「銀行に相談したいが、決算書を揃えて審査を待つ時間がない」という切実な声です。この課題を解決する一手として今、大きな注目を集めているのが、池田泉州ホールディングス(以下、同社)が開業した「01(ゼロワン)銀行」(以下、本サービス)に代表される「SaaSデータ融資」です。この記事では、革新的なサービスの単なる紹介に留まらず、プロの視点からその本質を解き明かします。
この記事を読めば、以下の問いへの答えが明確になります。
- そもそも「SaaSデータ融資」とは何か?
- その本当の強みと可能性はどこにあるのか?
- プロが警告する、利用者が「確認すべき」3つのリスクとは?
- リスクを踏まえた上で、検討するための具体的で現実的な「最初の一歩」がわかります。
はじめに:なぜ「決算書不要・最短当日融資」が生まれたのか?
従来の銀行融資は、過去の実績をまとめた「決算書」を主な判断材料としてきました。これは企業の信用度を測る上で非常に重要ですが、大きな弱点も抱えています。それは、審査に時間がかかり、急な資金需要に対応しづらいこと、そして「今の事業の勢い」が反映されにくいことです。実際に、中小企業庁が発表した2023年版『中小企業白書』でも、資金繰りは経営上の最重要課題の一つとして挙げられており、多くの企業がこの「時間差」に悩まされてきました。
この構造的な課題をテクノロジーで解決しようというのが、「SaaSデータ融資」の基本的な考え方です。freee(フリー)のような会計ソフトや、受発注管理システムなどのSaaS(Software as a Service)に蓄積された日々の取引データと、銀行の入出金データを直接連携させることで、企業の「今」の経営状況をリアルタイムに評価します。この動きの背景には、「地盤とする大阪府内も長期的な人口減は避けられない。生き残りのために域外にも収益源を求める必要がある」(日本経済新聞・7月24日付)という、地方銀行の生き残りをかけた強い意志があります。
この章では、SaaSデータ融資が従来の銀行融資の課題を解決するために生まれた背景を理解しました。次章では、これが具体的にどのような強みをもたらすのかを詳しく見ていきましょう。
SaaSデータ融資が持つ、3つの「本当の強み」
この新しい融資モデルは、単に「速くて便利」というだけではありません。中小企業経営者にとって、本質的な3つの価値を提供します。ここで、従来型の融資との違いを構造的に見てみましょう。
従来型融資とSaaSデータ融資のイメージ比較
① 機会を逃さない「スピード」
最大の強みは、言うまでもなくそのスピードです。日本経済新聞の報道によれば「最短でその日に融資が実行されることもある」(7月24日付)とされており、例えば「今この材料を仕入れられれば、大きな受注に対応できる」といった場面で、目の前のビジネスチャンスを確実に掴むための強力な武器となります。
※ただし、KYC(本人確認)と主要SaaS・銀行口座の連携が完了し、審査対象・受付時間など運用条件が整う場合に限ります。
② 過去の数字より「今の事業実態」を評価
決算書はあくまで過去一年間のスナップショットに過ぎません。しかし、SaaSや銀行口座のデータは、「今の売上」「今のキャッシュフロー」を雄弁に語ります。「クラウドサービスの利用実績からその会社の『技術開発力』や『営業販売力』などを数値化する」(日本経済新聞・7月24日付)といった形で、決算書には表れない「見えない実力」が評価されるのです。
※ただし、データ鮮度・欠損率・分類の整合が担保され、SaaS×銀行×決済等の三点照合で整合性が確認できる場合に限ります。
③ 経営者が本来の業務に集中できる「手間の削減」
資金調達のために大量の書類を作成し、銀行に何度も足を運ぶ…こうした時間は、経営者にとって大きな負担です。手続きがネット上で完結するこの仕組みは、資金繰りの手間を劇的に削減し、経営者が新商品の開発や顧客対応といった、本来集中すべき業務に時間を使えるようにしてくれます。
※ただし、本人確認・電子契約・口座振替等のオンライン手続きに対応し、必要資料を事前にデジタル化できている場合に限ります。
SaaSデータ融資がスピード、リアルタイム評価、手間の削減という強力なメリットを持つことがわかりました。しかし、物事には必ず光と影があります。次章では、プロとして警鐘を鳴らしたい「見過ごせない落とし穴」を解説します。
手軽さの裏側:プロが警告する、あなたが「確認すべき」3つのリスク
この融資モデルは非常に魅力的ですが、その手軽さゆえに、利用者自身が陥りがちなリスクを見過ごしてしまうケースも少なくありません。あなたが安易に飛びついて後悔しないために、プロとして特に警告したい3つのポイントをお伝えします。
① あなたの「データの質」が審査結果を左右する
SaaSデータ融資は、日々のデータが正確であることが大前提です。意図的な改ざんは論外ですが、日々の入力漏れや勘定科目の分類ミスといった、悪意のない不正確なデータであっても、AIはそれを「業績のブレ」や「管理体制の不備」としてネガティブに評価する可能性があります。自社のデータ管理が不十分だと、本来得られるはずだった与信枠を逃したり、審査で不利な評価を受けたりする直接的なリスクがあることを理解してください。
② 業績悪化時に「与信枠が急変」する可能性
リアルタイムデータで評価されるということは、裏を返せば、景気の後退や突発的なトラブルで売上が急減した場合、あなたの与信枠も即座に見直され、縮小・停止されるリスクがあるということです。従来の融資と違い、AI審査は「今」の状況をシビアに判断します。最も資金繰りが苦しい時に、この手軽な資金調達手段が使えなくなる可能性を念頭に置き、これ一本に依存する危険な資金繰りは避けるべきです。
③ 安易な利用が「根本的な問題解決」を遅らせる罠
この融資の最大のリスクは、その手軽さゆえに、経営者自身が「まだ大丈夫だ」と事業の根本的な問題から目を逸らしてしまうことです。本来向き合うべき利益率の改善や不採算事業の見直しを先送りし、目先の資金ショートを回避するためだけに利用を繰り返せば、それは単なる「延命措置」という名の麻薬になりかねません。手軽に借りられるからこそ、「この資金で何を改善するのか」という明確な目的がなければ、より深刻な事態を招く危険な選択となります。
では、どう判断し、行動すべきか?
ここまで解説したリスクを読み、「利用するのは怖い」と感じたかもしれません。しかし、重要なのは、これらのリスクを理解し、「自社はコントロールできるか?」という視点で冷静に判断することです。
この融資は、すべての中小企業にとっての万能薬ではありません。しかし、条件が合う企業にとっては、これ以上ないほど強力な武器にもなり得ます。
そこで、この融資が自社にとって「有効な選択肢」となりうるかを見極める、最も現実的で簡単な「最初の一歩」をお伝えします。それは、あなたの会社が日常的に使っている会計ソフトや販売管理システムが、この融資サービスと連携可能かどうかを確認することです。
まずは、本記事でも触れている「01Bank」の公式サイトにある連携可能プラットフォーム一覧で、あなたの会社が使っているSaaSが対応しているかを確認してみてください。
もし、あなたが使っている会計ソフト(例えばfreee)などの名前がそこにあれば、あなたは「いざという時に使える、強力な資金調達のカード」を一枚持っていることになります。今は必要なくても、その事実を知っておくだけで、今後の経営の選択肢は大きく広がるはずです。
まとめ:道具に支配されず、道具を使いこなすために
私がこれまで見てきた多くの中小企業は、素晴らしい技術や情熱を持ちながら、資金繰りという一点だけで苦しんできました。テクノロジーは、その理不尽な状況を変えるための強力な道具です。しかし、道具は使い方を誤れば危険です。どうか、この記事をきっかけに、あなたの会社にとって本当に価値のある選択をしてください。地方銀行が社運をかけて挑むこの新しい金融の形が、真に中小企業の力となるかは、私たち利用者の賢明な選択にかかっています。私たちは、そのための伴走者でありたいと心から願っています。
SaaSデータを活用した「決算書不要・最短当日融資」は、スピードとリアルタイム評価を武器に、中小企業の資金調達を革新する可能性を秘めています。しかし、その手軽さの裏にあるリスクを理解し、自社の適性を正しく判断することが不可欠です。この記事で解説したリスクと強みを参考に、あなたの会社にとって最適な一手を見つけてください。
FAQ(よくあるご質問)
Q1. このような新しい融資の金利は、やはり高いのでしょうか?
A1. 一概には言えませんが、従来の銀行融資に比べるとやや高めに設定される傾向があります。金利は、審査のスピードや利便性、そして金融機関が負うリスクの対価と考えることができます。ただし、無担保・無保証であることを考慮すれば、ビジネスローンなどと比較して妥当な水準であるケースも多いです。重要なのは、金利の絶対額だけでなく、その資金で得られるリターンが見合うかどうかで判断することです。
Q2. 具体的に、どれくらいの金額を、どのような条件で借りられるのでしょうか?
A2. 報道によれば、01Bankのサービス開始時点では、融資額は10万円以上1,000万円以内、融資期間は最長1年とされています。これは短期的な運転資金としての利用を想定しているためです。もちろん、実際の借入可能額は、あなたの会社のSaaSデータや入出金データをAIが分析した結果によって個別に決まります。自社の資金使途が、この金額と期間の範囲に合致するかどうかが、有効な選択肢になるかの一つの判断基準になります。
参考文献
- 中小企業庁「2023年版 中小企業白書」 | https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/chusho.html
- 日本経済新聞「池田泉州HDのデジタル銀行開業 法人融資特化、個人事業主にも展開」(7月28日付)| https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF282QV0Y5A720C2000000/
- 日本経済新聞「池田泉州HD『デジタルバンク』始動 融資特化、クラウド企業と顧客共有」(7月24日付)| https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF221J80S5A720C2000000/
- ITmedia ビジネスオンライン「池田泉州HDの「01Bank」がサービス開始 SaaSデータ活用し無担保融資」(2025年8月26日付)| https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2508/26/news018.html
当記事の品質と信頼性について
この記事は、AIを高度なリサーチ・アシスタントとして活用して作成しました。内容の正確性については、当記事の監修者である税理士の佐治英樹が責任を持って確認しております。
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