
COM-B(コムビー)モデルとは、人の行動が起こる条件を「能力(Capability)」「機会(Opportunity)」「動機(Motivation)」の3つから考える行動モデルです。
たとえば、社員向けに新しい業務システムを導入したのに使ってもらえない。お客様向けのWebサービスを用意したのに、登録まで進んでもらえない。仕事では、このように「期待した行動が起こらない」ことがあります。
このとき、「本人のやる気がない」と考えるだけでは、原因と対策がずれることがあります。
操作方法を知らないのかもしれません。使う時間がないのかもしれません。必要性に納得していないのかもしれません。
COM-Bモデルを使うと、「人が動かない」という結果だけを見るのではなく、その行動に必要な条件のどこで止まっているのかを分けて考えられます。
この記事で持ち帰ること:COM-Bモデルの意味を確認したうえで、対象行動を具体化する → 原因を診断する → 原因に合った打ち手を考える → 行動が変わったか確認するという仕事での使い方まで順番に見ていきます。
COM-Bモデルとは?「人が動く条件」を3つに分けて考える
COM-Bモデルは、Susan Michie、Maartje M. van Stralen、Robert Westが2011年に発表した論文で示した行動モデルです。行動変容のための枠組み「Behaviour Change Wheel(ビヘイビア・チェンジ・ホイール、以下BCW)」の中心に置かれています。
COM-Bという名前は、次の要素からできています。
| 要素 | 日本語 | 一言でいうと | 確認する問い |
|---|---|---|---|
| Capability | 能力 | できるか | やり方や必要な技能を持っているか |
| Opportunity | 機会 | できる環境か | 時間・道具・周囲の環境が整っているか |
| Motivation | 動機 | やろうとするか | 価値を感じるか、感情や習慣が妨げていないか |
| Behavior | 行動 | 実際にすること | 誰が、何を、どのようにするのか |
ここで大切なのは、C・O・Mを完全に独立した3つの箱として考えないことです。
COM-Bでは、能力・機会・動機が互いに影響するシステムとして捉えられています。行動した結果が、その後の能力や動機などへ影響することもあります。
たとえば、新しい業務ツールを一度使ってうまくいけば、操作方法を覚えるだけでなく、「次も使えそうだ」という気持ちも生まれるかもしれません。
ポイント
COM-Bは、「なぜ行動しないのか」を一つの原因に決めるためのモデルではありません。行動が起こる条件を整理し、どこを詳しく調べるべきか考えるためのモデルです。
Capability・Opportunity・Motivationには、それぞれ2つの側面がある
COM-Bを実際に使うなら、「能力・機会・動機」という3語に加えて、それぞれの2つの側面まで知っておくと原因を見分けやすくなります。
Capability(能力):その行動を「できる」状態か
Capabilityは、その行動を実行するために必要な身体的・心理的な能力です。
- 身体的能力(Physical Capability)
- その行動に必要な身体能力や技能があるか。
- 心理的能力(Psychological Capability)
- 必要な知識があるか、理解できるか、覚えたり判断したりできるか。
たとえば、「CRM(顧客情報や商談履歴を管理する仕組み)への入力方法を知らない」場合は、心理的能力に問題がある可能性があります。
Opportunity(機会):その行動を「できる環境」か
Opportunityは、本人の外側にある、その行動を可能にしたり促したりする条件です。
- 物理的機会(Physical Opportunity)
- 時間、場所、道具、システム、資金など。
- 社会的機会(Social Opportunity)
- 周囲の人、組織文化、社会的なルールや慣習など。
操作方法を理解していても、商談が連続して入力する時間がなければ、CRMへの入力は難しくなります。
また、「質問すると能力がないと思われそう」という職場の雰囲気があるなら、本人の知識だけでなく、社会的な環境も確認する必要があります。
Motivation(動機):「やる気」より広い概念
COM-BにおけるMotivationは、日常語の「やる気」より広い概念です。
原論文では、意識的な評価や計画だけでなく、感情、衝動、習慣なども行動を方向づける要素に含まれます。
- 熟慮的動機(Reflective Motivation)
- 「やる価値がある」「この方法を選ぼう」といった評価、判断、計画、目標。
- 自動的動機(Automatic Motivation)
- 感情、衝動、習慣など、必ずしも意識的に考えて生じるとは限らない心理的な働き。
たとえば、新しいシステムを使う必要性に納得していない状態は、熟慮的動機に関係します。
一方、「以前の方法をつい使ってしまう」「失敗するのが不安」といった状態では、自動的動機が関係している可能性があります。
COM-Bを使う前に、「人が動かない」を具体的な行動に置き換える
COM-Bで原因を考え始める前に、やっておきたいことがあります。
「何の行動を変えたいのか」を具体的にすることです。
UCLのCentre for Behaviour Changeでも、まず対象となる行動を特定し、その後にCapability・Opportunity・Motivationの何を変える必要があるか診断する流れが示されています。

たとえば「社員が動かない」という問題だけでは、誰の、どの行動を分析すればよいのか分かりません。
そこで、
営業担当者が、商談終了から24時間以内にCRMへ商談内容を入力しない
まで具体化します。
お客様についても、「サービスを使ってくれない」ではなく、
無料体験ページを訪れた人が、アカウント登録を完了しない
まで絞ります。
「誰が、何をしていないのか」が具体的になることで、初めてC・O・Mのどこに原因がありそうかを調べやすくなります。
C・O・Mのどこで止まっているかを診断する
対象行動が決まったら、その行動が起こるための条件をC・O・Mから確認します。
ここでは、最初から原因を決めつけないことが重要です。
| 見る場所 | 確認する問い |
|---|---|
| Capability | やり方を知っているか。必要な知識や技能があるか |
| Opportunity | 時間、道具、情報、周囲の環境が整っているか |
| Motivation | 必要性に納得しているか。不安や習慣が妨げていないか |
Capabilityを確認する
- やり方を知っているか
- 必要な知識を理解しているか
- 必要な技能を持っているか
- 覚えたり判断したりする負担が大きすぎないか
- 身体的に実行できるか
Opportunityを確認する
- 必要な時間があるか
- 必要な道具や情報へアクセスできるか
- システムや手順が行動を妨げていないか
- 周囲の人がその行動を支えているか
- 組織のルールや文化が邪魔していないか
Motivationを確認する
- 行動する意味や価値に納得しているか
- メリットとデメリットをどう評価しているか
- 不安や抵抗感がないか
- 別の行動を優先していないか
- 以前の習慣へ戻っていないか
一つの行動に、C・O・Mの複数が同時に関係することもあります。
COM-Bでは、対象行動についてCapability・Opportunity・Motivationのどこを変える必要があるかを診断します。一つだけが問題の場合もあれば、複数に働きかける必要がある場合もあります。
同じ「入力しない」でも、原因が違えば打ち手は変わる
ここまでの考え方を、社員がCRMを入力しないケースで見てみます。
結果だけを見ると、どのケースも同じです。
「営業担当者がCRMへ商談内容を入力しない」
しかし、その背景まで見ると原因は大きく異なる可能性があります。

たとえば、入力方法を知らない人には操作方法の説明が役立つでしょう。
しかし、入力方法を知っていても、商談が連続して入力時間が取れない人に研修を増やしても、問題は解決しにくいはずです。
必要性に納得していないなら、入力した情報が何に使われ、どのような価値があるのかを共有する必要があります。
さらに、「入力すると上司から細かく追及される」と感じているなら、本人のMotivationだけを変えようとしても十分ではありません。職場の運用や反応というSocial Opportunityも関係している可能性があります。
ポイント
COM-Bを使う意味は、「行動しない」という表面上の結果から、いきなり対策へ進まないことにあります。原因が違えば、必要な打ち手も変わります。
お客様がオンラインサービスの登録を完了しない場合も同じように考える
COM-Bは、社員の行動だけでなく、お客様の行動を考えるときにも利用できます。
たとえば、
「サービス紹介ページを訪れたお客様が、無料アカウントの登録を完了する」
という行動を増やしたいとします。
Capability
サービスの内容や登録方法を理解できているでしょうか。
専門用語が多かったり、次に何をすればよいのか分からなかったりすれば、心理的Capabilityが関係している可能性があります。
Opportunity
スマートフォンでも入力しやすいでしょうか。
登録項目が多い、途中で別の書類や情報を探さなければならない、といった状況なら、利用環境や手順を確認する必要があります。
Motivation
登録する価値を感じているでしょうか。
個人情報の入力に不安がある、サービスを利用するメリットを感じない、今すぐ登録する理由がない、といった可能性もあります。
「登録率が低い」という数字だけでは、どの原因かは分かりません。
説明不足なら情報設計を見直し、操作上の障壁ならフォームを見直し、不安が原因なら安心して判断できる情報を整える。
診断によって、改善すべき場所が変わります。
なお、お客様が「面倒だから登録しなかった」と答えた場合でも、それだけでOpportunityの問題と決める必要はありません。
操作が複雑で理解できないならCapability、入力工程や必要時間が問題ならOpportunity、登録する価値を感じていないために「面倒」と表現しているならMotivationが関係している可能性があります。
本人が使った言葉をそのままC・O・Mへ分類するのではなく、その背景に何があるのかを確認することが大切です。
社員が動きやすい組織を考えるうえでは、個人の行動だけでなく、意思決定のルールや組織運用の設計も重要です。創業期の組織設計を別の角度から整理した記事です。
COM-Bは「答えを出す表」ではなく、原因を調べる出発点
COM-Bで「Motivationに問題がありそう」と分かっても、それだけで具体的な対策が一つに決まるわけではありません。
COM-Bは診断のための枠組みです。COM-Bの開発者による公式サイトでも、行動を分析し、行動に影響を与える介入を考えるためのモデルとして位置づけられています。
たとえばCapabilityに問題がある場合でも、
- 知識がない
- 操作技能が足りない
- 情報が複雑すぎて理解できない
では必要な対応が異なります。
「Cなら研修、Oなら環境改善、Mなら説得」と機械的に当てはめるモデルではありません。
実際の状況を確認しながら、「何が変われば対象行動が起こりやすくなるのか」を考えていきます。
詳しく見る:Behaviour Change Wheelとは?
COM-Bは、Behaviour Change Wheel(BCW)の中心に置かれています。
BCWでは、COM-Bによる行動診断の外側に、教育、訓練、環境再構成など9種類の「介入機能」が整理されています。さらにその外側には、介入を支える政策カテゴリーがあります。
この記事ではCOM-Bによる診断までを中心に扱っています。より体系的に「どのような介入を行うか」まで設計したい場合は、BCWまで見るとCOM-Bとの関係を理解しやすくなります。
COM-Bを仕事で使う流れ
ここまでをまとめると、仕事でCOM-Bを使う流れは4段階です。

ポイントは、表面に見えている結果から、そのまま対策へ飛ばないことです。
まず対象行動を具体化し、C・O・Mから原因を調べます。
そのうえで原因に合った打ち手を考え、実際に行動が変わったかを確認します。
行動が変わらなければ、最初の診断や介入を見直します。
よくある質問
Q. COM-Bモデルは何と読みますか?
A. 一般に「コムビー・モデル」と読みます。Capability、Opportunity、Motivation、Behaviorの頭文字からCOM-Bと呼ばれています。
Q. COM-Bモデルは誰が提唱したものですか?
A. Susan Michie、Maartje M. van Stralen、Robert Westが、2011年に発表した論文「The behaviour change wheel: A new method for characterising and designing behaviour change interventions」で示したモデルです。
Q. COM-BとBehaviour Change Wheelは同じものですか?
A. 同じものではありません。COM-Bは行動に影響する条件を理解・診断するモデルで、Behaviour Change Wheel(BCW)は、その診断を介入設計へつなげる、より大きな枠組みです。COM-BはBCWの中心に配置されています。
Q. 一つの行動について、C・O・Mのどれか一つを選べばよいですか?
A. いいえ。一つだけが主な障壁になる場合もありますが、複数の要因が同時に関係する場合もあります。「どれに分類するか」自体を目的にするより、対象行動を変えるために何を変える必要があるのかを見つけることが重要です。
Q. Fogg Behavior Modelとは何が違いますか?
A. Fogg Behavior Modelでは、行動が起こる条件をMotivation(動機)・Ability(能力)・Prompt(きっかけ)の3つから考えます。
COM-BではCapability・Opportunity・Motivationを用い、本人の能力だけでなく、物理的・社会的な環境をOpportunityとして分析します。
なお、Fogg Behavior ModelのPromptは、以前は「Trigger」と呼ばれていましたが、2017年末に名称が変更されています。
どちらが常に優れているというものではなく、分析したい問題や目的によって使い分けます。
まとめ:人が動かないときは、「行動が起こる条件」を見る
COM-Bモデルは、人の行動をCapability(能力)・Opportunity(機会)・Motivation(動機)の3つから考えるモデルです。
実際に仕事で使うときは、対象行動を具体化する → C・O・Mで原因を診断する → 原因に合った打ち手を考える → 行動が変わったか確認するという順番で考えます。
人が期待した行動をしないとき、目に見えるのは「行動しなかった」という結果だけです。
その背後には、できない、できる環境がない、必要性に納得していない、不安がある、以前の習慣が残っているなど、異なる原因があり得ます。
表面の結果から対策へすぐ進まず、「何が変われば、この行動が起こるのか」と一度分解して考える。
COM-Bモデルは、そのための出発点として使えます。
参考資料
[2] UCL Centre for Behaviour Change:Advancing behavioural science
[3] The COM-B Website:COM-Bモデル公式サイト
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免責事項
この記事は2026年9月15日時点の公開情報に基づき、COM-Bモデルの一般的な考え方と、仕事上の場面へ応用する際の考え方を解説したものです。個別の組織課題やマーケティング施策について、特定の結果や効果を保証するものではありません。



















