
愛知県は、STATION Aiを中心に、海外の州政府、大学、スタートアップ支援機関との連携を広げています。
2026年6月時点では、8か国にある20の支援機関や大学などとの連携を公表しています。目的は、県内スタートアップの海外展開、海外スタートアップの愛知への誘致、県内企業との協業、海外の起業支援ノウハウの導入です。
ところが、連携先として登場するのは、オースティン、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏、ノルトライン=ヴェストファーレン州、キョンサンナムドなど、日本では名前を聞いただけで特徴を想像しにくい地域です。
「海外の有力地域と連携している」と言われても、その地域にどんな産業や支援機能があり、愛知が何を求めているのかが分からなければ、連携の意味は見えてきません。
この記事では、各地域の産業、愛知県が連携する機関、連携によって得ようとしている機能の順に整理します。
- どんな企業や産業が集まっているのか
- 愛知県が実際にどの機関と連携しているのか
- その連携によって何を得ようとしているのか
州・地域圏は代表地点で示しています。ラベル位置は読みやすさを優先した配置です。
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愛知が海外との連携で得ようとしている三つの機能
愛知県が進める海外連携の目的を、この記事では三つの機能に整理します。
産業接続・社会実装
海外の顧客、事業会社、工場、研究機関、実証環境とつながり、商談、共同開発、実証、量産、販売へ進める機能です。
グロース・海外市場展開
海外市場への参入、投資家との接続、事業計画の改善、現地パートナーの探索などを通じて、スタートアップを成長させる機能です。
起業・事業化能力の形成
大学の研究成果や企業内の技術、事業アイデアを、スタートアップや新規事業に変える機能です。起業家やスタートアップ支援者の育成も含みます。
この記事独自の整理です
この三分類は、愛知県による公式な分類ではありません。公表されている連携内容を地域ごとに比較しやすくするための整理です。一つの地域が複数の機能を持つ場合もあります。
オースティン:大学、半導体、モビリティ、海外展開が重なる
米国テキサス州の州都オースティンとその周辺は、Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)が生まれた地域です。
現在は、半導体大手のAdvanced Micro Devices/AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)が主要拠点を置き、Tesla(テスラ)も大型工場を稼働させています。
これらの企業から見えてくるのは、オースティンがコンピューター、半導体、モビリティが重なる地域だということです。
愛知県とオースティンの関係で中心となるのは、テキサス大学オースティン校です。
愛知県は2016年にテキサス州と覚書を締結し、2019年から同大学とのスタートアップ支援事業を継続しています。連携内容には、県内スタートアップの育成、海外展開支援、スタートアップ支援者向けの研修、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)への出展支援などがあります。
オースティンとの連携には、三つの意味があります。
- 半導体やモビリティなどの企業が集まる北米市場へ接続すること
- テキサス大学を中心とする起業家育成や事業化の方法を学ぶこと
- SXSWや現地の投資家、支援者との接点を通じて、愛知のスタートアップを海外市場へ送り出すこと
オースティンは、産業、大学、海外展開支援が一つの地域に重なる、愛知との関係が最も複合的な地域の一つです。
バークレー周辺:スタートアップを投資家と世界市場へつなぐ
カリフォルニア州バークレーは、サンフランシスコ湾岸のスタートアップ・エコシステムの一部です。
この地域を理解するうえでは、個別の有名企業よりも、大学、アクセラレーター、投資家が近い距離に集まっていることが重要です。
愛知県が覚書を締結している相手は、カリフォルニア大学バークレー校です。2024年12月3日に覚書を締結し、2025年度からは、同大学のアクセラレーターであるBerkeley SkyDeck(バークレー・スカイデック)が連携プログラムを担っています。
プログラムの対象は、愛知県内またはSTATION Aiのスタートアップや起業家です。大学発企業に限定されていません。
この連携の中心は、大学発技術に限らず、愛知のスタートアップや起業家の事業計画、顧客理解、ピッチ、資金調達戦略を、海外市場で通用する形に磨くことです。
バークレー周辺は、特に「グロース・海外市場展開」と「起業・事業化能力の形成」の役割が強い地域です。
オースティンでは大学と産業の双方との接続が見えます。バークレー周辺では、アクセラレーターや投資家のネットワークを通じて、事業を海外市場と資金調達へつなぐ機能が前面に出ています。
オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏:半導体、モビリティ、エネルギーを実証へつなぐ
フランスのオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏は、リヨン、グルノーブル、クレルモン=フェランなどを含む広域地域です。
グルノーブル周辺には、半導体メーカーのSTMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)や、半導体、エネルギー、デジタル技術を研究するCEA(フランス原子力・代替エネルギー庁)があります。
リヨン周辺には、商用車メーカーのRenault Trucks(ルノー・トラック)などの製造業が集まっています。
愛知県は2022年5月、同地域圏と友好交流・相互協力に関する覚書を締結しました。対象には、経済交流、国際産業展、スタートアップ支援、高度人材交流などが含まれます。
その後、現地研究機関との意見交換、オンラインセミナー、展示会出展、企業ミッションなどを進めています。
この地域との連携では、半導体、モビリティ、エネルギーなど、愛知の産業と接点を作りやすい分野が、実際の事業に使われています。
愛知のスタートアップにとっては、現地の研究機関や企業との共同開発、実証、欧州市場への進出につながる可能性があります。
中心となるのは「産業接続・社会実装」です。研究機関から生まれた技術を事業へつなぐという点では、「起業・事業化能力の形成」にも関係します。
同じフランスでも、パリとは役割が異なります。パリは起業支援や海外成長の方法を学ぶ接続先としての性格が強く、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏は、製造、研究、実証の接続先として捉えられます。
ノルトライン=ヴェストファーレン州:既存産業の転換をスタートアップにつなぐ
ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州は、製造業、化学、エネルギーが集まる地域です。
州内には、鉄鋼や産業設備を扱うThyssenkrupp(ティッセンクルップ)、医薬・化学大手のBayer(バイエル)、エネルギー大手のRWE(アール・ヴェー・エー)などがあります。
同州は巨大な既存産業を抱え、石炭・重工業を中心とした産業構造から、脱炭素、エネルギー転換、デジタル化へ移行している地域でもあります。
愛知県は2023年7月、同州とスタートアップ、水素・再生可能エネルギー、文化・芸術の分野で連携を進めることで合意しました。
愛知との接点には、双方に製造業が集積していることに加え、既存産業をスタートアップの技術によって変えること、脱炭素やエネルギー転換に対応すること、大企業と新興企業をつなぐことがあります。
中心となるのは「産業接続・社会実装」です。ただし、オースティンやシンガポールと比べると、愛知との具体的な継続プログラムはまだ形成途上です。
読み分けのポイント
この地域は、産業構造上の相性と、公表済みの共同事業の進み具合を分けて評価する必要があります。
キョンサンナムド:造船、鉄道、航空宇宙の企業へつなぐ
韓国のキョンサンナムド(慶尚南道)は、韓国南東部にある工業地域です。
慶尚南道には、巨済にSamsung Heavy Industries(サムスン重工業)の造船所、昌原にHyundai Rotem(ヒョンデ・ロテム)の鉄道車両などの生産拠点とDoosan Enerbility(斗山エナビリティ)の発電設備関連拠点、泗川にKorea Aerospace Industries/KAI(韓国航空宇宙産業)の本社・航空機生産拠点があります。
造船、鉄道、航空宇宙、エネルギー設備、機械産業が集積していることが、企業名からも分かります。
愛知県は2023年9月にキョンサンナムドと覚書を締結し、航空宇宙産業やスタートアップ支援などでの連携を進めています。
愛知県の公表によると、韓国・慶尚南道のスタートアップ1社が愛知県への進出を決めた成果も確認されています。
この地域との連携は、愛知のモビリティ、航空宇宙、機械産業との接点を理解しやすい事例です。相互の企業を紹介するだけでなく、海外スタートアップを愛知へ呼び込み、県内企業との協業につなげる動きが確認できます。
中心となるのは「産業接続・社会実装」です。
シンガポール:NUSとBLOCK71を通じて東南アジアへつなぐ
シンガポールについては、場所や国際都市としての一般的な説明よりも、愛知がどの機関とつながっているかを見る方が重要です。
愛知県が連携している中心的な機関は、National University of Singapore/NUS(シンガポール国立大学)です。
愛知県は2019年に、NUSとスタートアップ支援に関する覚書を締結しました。STATION Ai内には、NUSの起業支援部門NUS Enterpriseが運営するBLOCK71(ブロックセブンティーワン)の日本拠点「BLOCK71 NAGOYA」があります。
この接続を通じて、次のような取り組みを進めています。
- 愛知のスタートアップの東南アジア展開
- NUS発スタートアップの日本進出
- 大学発技術の事業化
- 海外スタートアップと愛知企業の協業
シンガポールとの連携で中心となるのは、「グロース・海外市場展開」と「起業・事業化能力の形成」です。
愛知が得ようとしているのは、シンガポール一国内の販売先に限りません。NUSの専門家によるメンタリングや現地企業との商談を通じて、その先の東南アジア市場への経路を作ることです。
パリ:STATION Fから支援拠点の運営と海外成長を学ぶ
パリも、一般企業の名前より、愛知がつながっている支援施設を見るべき地域です。
中心となるのは、世界最大級のスタートアップ集積施設STATION F(ステーション・エフ)と、都市型のスタートアップ支援を行うParis&Co(パリ・アンド・コー)です。
愛知県は、Paris&Coとは2019年に覚書を締結し、STATION Fとは2021年から事業を実施しています。パリ市とも2023年に連携で合意しました。
愛知県は、STATION Fからスタートアップ支援施設の運営やプログラム設計に関する知見を得ています。県内スタートアップのフランス派遣や、フランスのスタートアップを愛知へ招く事業も実施しています。
2026年度の派遣プログラムでも、STATION Fでの講義やメンタリング、欧州企業やVC等との関係構築が組み込まれています。
パリとの連携で愛知が得ようとしているのは、次のような機能です。
- スタートアップ支援施設の運営方法
- 起業家や支援者の国際的なネットワーク
- 欧州市場への展開支援
- 都市や大企業を使った実証・協業の方法
中心となるのは、「グロース・海外市場展開」と「起業・事業化能力の形成」です。
地域ごとの役割には濃淡がある
ここまで見てきた地域を、愛知との公表済みの連携内容に基づいて整理すると、次のようになります。
| 地域 | 産業接続・社会実装 | グロース・海外市場展開 | 起業・事業化能力 |
|---|---|---|---|
| オースティン | 2 | 3 | 3 |
| バークレー周辺 | 1 | 3 | 3 |
| オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏 | 3 | 2 | 2 |
| ノルトライン=ヴェストファーレン州 | 2 | 1 | 1 |
| キョンサンナムド | 3 | 1 | 1 |
| シンガポール | 2 | 3 | 3 |
| パリ | 2 | 3 | 3 |
数値の意味
3は連携の中心となる機能、2は明確に含まれる機能、1は補助的または形成途上の機能です。地域そのものの能力や優劣ではなく、愛知との具体的な連携内容を評価しています。
同じ地域でも、愛知が実施する事業が変われば、評価も変わります。地域の一般的な知名度や実力ではなく、愛知との具体的な連携内容に、どの機能が含まれているかで判定しています。
愛知は複数地域の機能を組み合わせている
愛知県の海外連携先は、表面上はばらばらに見えます。州政府と合意する地域もあれば、大学と継続事業を行う地域、スタートアップ支援施設からノウハウを得る地域もあります。
しかし、愛知が得ようとしている機能から見ると、それぞれの役割が見えてきます。
オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏、ノルトライン=ヴェストファーレン州、キョンサンナムドは、製造業、エネルギー、モビリティ、航空宇宙などの企業や実証環境への接続に強みがあります。
オースティン、バークレー、シンガポール、パリは、海外市場への展開、投資家との接続、起業家育成、支援拠点の運営などに強みがあります。
愛知県は、一つの海外都市の成功モデルをそのまま移植するというより、愛知が持つ製造業の基盤に、世界各地が持つ異なる機能を組み合わせようとしています。
新しい海外連携では、「どこか」と「何を得るか」を見る
今後も、愛知県やSTATION Aiの発表には、聞き慣れない海外の州、都市、大学、支援機関が登場するでしょう。
その際は、次の順番で見ると、連携の意味を判断しやすくなります。
- 愛知が実際につながっている相手は、政府、大学、支援施設のどれか
- どのようなプログラムや企業交流を行っているか
- その地域の産業や研究環境が、活動にどう使われているか
- 産業接続、海外展開、事業化のうち、何を得ようとしているか
企業名は、海外地域についての雑学を増やすために示すものではありません。
デルやAMDが集まる地域から、大学、半導体、海外展開支援が重なる理由が見える。STマイクロエレクトロニクスの地域から、半導体やエネルギー分野の研究・実証環境との接点が見える。サムスン重工業やKAIの地域から、愛知の航空宇宙・機械産業との接点が見える。
企業名と連携目的がつながったとき、地域を紹介する意味が生まれます。
愛知県が構築し、STATION Aiを主要な活動拠点として展開する海外ネットワークは、愛知のスタートアップや企業を、海外の顧客、工場、投資家、大学、支援者へつなぎ、海外の企業や技術を愛知へ呼び込むためのネットワークです。
よくある質問
Q. 三つの機能は愛知県の公式分類ですか?
A. いいえ。公表された連携内容を地域ごとに比較するため、この記事で独自に整理した分類です。
Q. 表の「3・2・1」は地域の実力を示しますか?
A. 示しません。愛知との公表済みの連携内容に、その機能がどの程度含まれているかを表しています。
Q. 海外連携は県内スタートアップの海外進出だけが目的ですか?
A. 海外展開に加え、海外スタートアップの愛知への誘致、県内企業との協業、起業支援ノウハウの導入なども含まれます。
参考資料
[1] Aichi-Startup戦略に係る2025年度主要事業の成果について
[2] A2(Aichi-Austin)Innovation Kick-start Program
[9] シンガポール国立大学連携事業
[10] フランス派遣プログラム
免責事項
この記事は2026年8月3日時点で確認できる公表資料を基に作成しています。企業の拠点、支援プログラム、連携内容は変更される場合があります。三つの機能分類と表の数値は、公式評価ではなく、記事内で比較するための独自整理です。



















