
スタートアップが新しい商品やサービスを社会に広げるには、最初に購入してくれる顧客が必要です。
自治体は、防災、福祉、子育て、交通、観光、業務効率化など、さまざまな地域課題を抱えています。スタートアップの商品やサービスが解決策になる場合、自治体自身が顧客になることで社会実装を後押しできます。
そこで国は、自治体によるスタートアップからの調達を増やそうとしています。
2026年8月4日、総務省と経済産業省は、「4号随契」と呼ばれる仕組みを活用し、スタートアップからの調達を拡大するよう自治体に通知しました。
この通知には、自治体によるスタートアップ調達を進めるための運用とともに、一つの自治体で確認された実施計画を、別の自治体の認定手続でも利用する方法が示されています。
この記事のポイント
最初の自治体との調達契約に至らなくても、認定手続の中で実施計画が確認されていれば、その計画を別の自治体の認定申請に生かせる可能性があります。
自治体への最初の挑戦を、一件限りで終わらせないための規定です。
自治体が新しい商品やサービスを直接調達できる「4号随契」
自治体の契約は、一般競争入札が原則です。
ただし、新しい商品やサービスについては、法令に基づいて事業者を認定し、その認定された商品やサービスを競争入札によらず調達できる場合があります。
これが、地方自治法施行令第167条の2第1項第4号に基づく随意契約、いわゆる「4号随契」です。
4号随契は、スタートアップだけを対象とする制度ではありません。法令上は、新商品の生産や新サービスの提供によって、新たな事業分野の開拓を図る者として認定された事業者が対象です。
今回の通知では、この制度をスタートアップからの調達促進にも活用し、地域の行政課題の解決や業務の効率化、スタートアップの育成につなげることが求められています。
実施計画の確認、事業者の認定、調達契約は別の段階
4号随契では、事業者が自治体の認定手続に申請し、「実施計画」を提出します。自治体は実施計画を確認し、その結果を踏まえて事業者を認定するか判断します。
認定された後も、実際に商品やサービスを購入するかは、必要性や予算、価格、契約条件などを踏まえて別途検討されます。
自治体側の手続は、次の4段階に分かれます。
- 認定申請を受け付ける
- 実施計画を確認する
- 事業者認定を判断する
- 認定後、実際の調達を検討する
つまり、実施計画の確認、事業者の認定、実際の調達契約は、それぞれ別の段階です。

実施計画には、次の内容を記載します。
- 新商品や新サービスを提供する目標
- 商品やサービスの内容
- 実施時期
- 実施方法
- 実施に必要な資金額
- 資金の調達方法
自治体は、その商品やサービスに新規性や有用性があるか、計画が実行可能な内容になっているかを確認します。
しかし、自治体が変わるたびに同じ確認を最初から繰り返せば、自治体側にも事業者側にも負担がかかります。
この重複を減らすのが、確認済み実施計画の写しを利用できる規定です。
他自治体が確認した実施計画の写しを使える
地方自治法施行規則第12条の3第7項では、自治体が事業者を認定する際、すでに別の自治体が提出させて確認した実施計画について、その写しを用いて確認できると定めています。
STEP 1:事業者が自治体Aへ認定申請し、実施計画を提出する
↓
STEP 2:自治体Aが実施計画を確認し、事業者を認定する
↓
STEP 3:自治体Aでは、実際の調達契約には至らない
↓
STEP 4:事業者が自治体Bへ、確認済み実施計画の写しなどを提出する
↓
STEP 5:自治体Bがその写しを用いて確認し、自ら認定や調達を検討する
実施計画の写しを利用する条件として、最初の自治体が商品やサービスを購入したことや、調達契約を締結したことは規定されていません。
そのため、自治体Aで事業者として認定された後、実際の調達契約に至らなかった場合でも、確認済みの実施計画が自治体Bの認定手続で利用される可能性があります。
調達契約に至らなくても、次につながる資料が残る
自治体への提案には時間がかかります。
担当部署と打ち合わせを重ね、行政課題に合わせてサービスを説明し、実施方法や供給体制、必要資金まで計画に落とし込みます。
それでも、予算、導入時期、庁内調整などの事情によって、事業者として認定されても調達契約に至らないことがあります。
この場合でも、条件が整えば、確認済み実施計画を別の自治体の認定手続に利用できます。
最初の自治体への提案で目指せる三つの成果
- 最初の自治体による事業者認定
- 最初の自治体との調達契約
- 確認済み実施計画を活用した他自治体への提案・認定申請
最初の自治体との調達契約は重要です。そのうえで、契約に至らなかった場合にも、他自治体の認定手続で利用できる資料が残る可能性があります。
横展開の意味
一つ目の自治体が確認した実施計画の写しを利用することで、二つ目の自治体における確認手続の重複を減らせる場合があります。
実際に自治体間の連携も始まっている
今回の通知では、東京都の「ファーストカスタマー・アライアンス」が参考事例として紹介されています。
東京都は、参画自治体が認定したスタートアップの商品・サービスに関する情報を共有・カタログ化し、他自治体での公共調達につなげる取組を進めています。
2025年3月の始動時には、東京都、豊橋市、堺市、福岡市、文京区、墨田区、大田区、渋谷区、八王子市の9自治体が参加しました。
東京都が2026年4月時点で公表した連携事業一覧では、関係自治体として福島県、茨城県、岐阜県、兵庫県、豊橋市、福岡市など21自治体が掲載されています。
一つの自治体で認定された商品やサービスの情報を自治体間で共有し、他自治体の調達につなげようとする取組はすでに始まっています。
ただし、参加自治体数の増加だけでは、自治体をまたいだ契約が何件成立したかまでは分かりません。横展開の実績を評価できる公開データは、まだ限られています。
最初から「次でも使える計画」として作る
この規定を実務上生かすには、最初の自治体の認定要件を満たすことを前提に、他自治体への展開も見据えて実施計画を作ることが有効です。
1.解決する行政課題を明確にする
商品やサービスの機能を説明するだけでは、自治体が調達する理由として十分ではありません。
住民の利便性、職員の業務効率、防災、福祉、観光、地域交通など、どの行政課題をどのように改善するのかを示します。
2.確認や認定を証明する書類を整理する
実施計画の確認や事業者認定を受けた場合は、それらを証明する書面が交付されるか自治体に確認します。
調達契約に至らなかったときも、実施計画の写しと関係書類を整理しておきます。
3.同じ課題を持つ自治体を探す
確認済み実施計画を生かすには、その商品やサービスを必要としている自治体を見つける必要があります。
最初の提案と並行して、同じ行政課題を持つ自治体や、4号随契による認定制度を運用している自治体を調べておくと、認定後の横展開に動きやすくなります。
実施計画には資金調達方法も記載する
実施計画には、実施に必要な資金額と、その調達方法を記載します。
自治体へサービスを提供するには、開発費、採用費、外注費、仕入資金、システム運用費などが必要になる場合があります。
複数の自治体へ展開する段階では、供給量の増加や入金までの期間に対応する運転資金も必要です。
- 最初の自治体へ提供するために必要な資金
- 他自治体へ展開するときに追加で必要となる資金
- 契約から入金までの運転資金
- 自己資金、融資、出資などの調達方法
- 契約時期が遅れた場合に必要となる資金
自治体への横展開を見据えた実施計画と、必要資金の準備はセットで考える必要があります。
創業融資を利用する場合も、自治体向け事業の実施方法、資金使途、売上計画を結び付けて整理することが大切です。
一回の挑戦を、一回で終わらせない
国は今回の通知で、4号随契を積極的に活用し、スタートアップからの調達を自治体間で横展開するよう求めました。
最初の自治体で事業者認定を得るまでのハードルは残っています。
それでも、認定手続で実施計画が確認され、事業者として認定されれば、最初の自治体との調達契約に至らなかった場合にも、その計画を別の自治体の認定手続につなげられる可能性があります。
自治体への提案では、認定や契約を目指すとともに、他自治体の認定手続にも利用できる形で実施計画と関係書類を整理しておく。
計画の横展開を見据えて資料を作り、複数自治体へ提供できる資金を準備する。
一つ目の自治体で確認された実施計画が、二つ目の自治体への提案や認定申請の入口になる場合があります。
注釈
注1.今回の通知によって新しく作られた規定ではありません
他自治体が確認した実施計画の写しを利用できる規定は、地方自治法施行規則第12条の3第7項に以前から定められています。
今回の通知は、新しい制度を創設したものではありません。総務省と経済産業省が既存の規定を改めて示し、スタートアップ調達の拡大や自治体間の横展開に活用するよう促したものです。
注2.新しいサービスでは専門家への意見聴取が必要です
新しいサービスを提供する事業者の実施計画を確認するときは、原則として二人以上の学識経験者から意見を聴く必要があります。
今回の通知では、他自治体が確認した実施計画の写しを利用する場合、この意見聴取の手続などは不要になると示されています。
よくある質問
Q. 実施計画を提出すれば、他自治体でも利用できますか?
A. 提出しただけでは利用できません。先行する自治体が、その実施計画を確認していることが必要です。
Q. 最初の自治体との調達契約に至らなかった計画も利用できますか?
A. 最初の自治体で事業者認定を受けたものの、実際の調達契約に至らなかった場合は、確認済み実施計画の写しを別の自治体の認定手続で利用できる可能性があります。規則上、先行自治体による商品の購入や調達契約の成立は条件とされていません。
Q. 実施計画は確認されたものの、事業者として認定されなかった場合はどうなりますか?
A. 規則の文言では、先行自治体による事業者認定の成立自体は明示的な条件になっていません。ただし、認定に至らなかった場合に確認を証明する書面が交付されるか、次の自治体がその計画を利用するかは明確ではありません。先行自治体と次に申請する自治体の双方へ、個別に確認する必要があります。
Q. 別の自治体へ計画を提出するには、どのような書類が必要ですか?
A. 通知では、実施計画の写しとともに、確認書などの「実施計画が確認されたことを証する書面」を提出する方法が例示されています。書面の名称や必要書類は自治体によって異なる可能性があるため、実施計画の確認や認定を証明できる書類が交付されるか確認しておきましょう。
Q. 営業秘密が含まれる実施計画も共有されますか?
A. 通知では、実施計画が他自治体の確認にも利用されることを、あらかじめ事業者に示すことが適当とされています。必要に応じて、他自治体への提供に同意するか、計画の一部を非開示にするかを確認することも示されています。
Q. 確認を得た一部のスタートアップに契約が集中しませんか?
A. その可能性はあります。最初の確認を得た事業者は、別の自治体で確認手続の一部を省略できるため、次の提案で有利になり得ます。一方、公開情報だけでは、特定企業への契約集中がどの程度起きているかは判断できません。
Q. 自治体向け事業の資金計画について相談できますか?
A. 当事務所では、名古屋市で創業する方や創業後間もない方を対象に、日本政策金融公庫などの創業融資に関する支援を行っています。自治体向けサービスの開発費や運転資金を含め、事業計画と必要資金の整理からご相談いただけます。
参考資料
[1] 総務省・経済産業省:スタートアップからの調達促進に関する自治体向け通知(2026年8月4日・PDF)
[2] e-Gov法令検索:地方自治法施行規則 第12条の3
自治体向け事業では、最初の認定・契約に加えて、確認済み実施計画を次の自治体へ展開できる状態に整えることが重要です。実施計画と関係書類を保存し、複数自治体への供給に必要な資金もあわせて検討しましょう。
免責事項
本記事は、2026年8月4日時点の通知および関係法令をもとに作成しています。個別の実施計画の確認、事業者認定、随意契約、融資の可否は、関係法令、各自治体の要綱・募集要件および金融機関の審査によって決まります。他自治体が確認した実施計画の利用方法や必要書類は、自治体ごとに異なる場合があります。



















